中国地方18きっぷ旅二日目。
米子の朝。
野宿をした朝の風の冷たさは、妙に心地よい。
始発と共に、西へ。
どうしても来たかった温泉津温泉。
これは僕が大学一年生の時の話だ。
初めての夏合宿に参加した。場所は中国地方だった。2日目、江の川付近を走っていた二日目、ホイールがポテチになった。ポテチとはつまりホイールがまるでポテトチップスみたいにぐにゃりと曲がってしまった、ということである。ハンドル操作を誤った、という理由だった。一人出雲へ向かい、壊れたホイールと共に自転車を預けると、僕はすることが無くなった。まったく、することのない大学生ほど、暇な時間も無いのである。
その時、訪れたのが、温泉津温泉だった。
全くの思い付きだった。その時の僕は山陰の知識など全くなかったし、実際、街灯に集まる昆虫のように、「温泉」という言葉に惹かれて温泉津温泉に向かったのだ。「温泉」が二回もつく温泉なんて、きっといい温泉に違いない。その時の僕は、どうしようもなくバカだったに違いない。
初めて、一人で旅をした。
生まれて初めての、膨大な寂しい自由だった。
社会人になった自分が歩く。
当時は、怖かった。
薄い夕暮れ時だった。
何が怖かったのかは、もう分からなくなってしまった。
旅に慣れるということで、失ったものも多いのだろう。
記憶をたどるように歩く。
温泉津への道は、ここであっているか。
そう、それも怖かった。
歩くと思い出すこともあるのだろう。
この三文字を見た時、ほっとしたことを思い出す。
先に温泉に入った。
湯は熱かった。
びっくりするほど熱かった。
それが記憶と同じ温度だと分かったとき、少しだけ涙腺が熱くなった。
湯から上がり、2F、3Fへと上がる。
この空間が僕は好きだ。
夏の湿った空気が汗ばんだシャツを乾かす。
夏に入るには、あまりに暑すぎる湯だったと思うが、それでもまた、夏に来てしまうのだろう。そして、汗だくになっているのにもかかわらず、何も考えず灰色のシャツを着た僕は、いまだにバカなのだろう。
小一時間ゆっくりして、薬師湯を出た。
少し町を散策していく。
今回は、急ぐ旅ではない。
猫ちゃん。
こういうのを見て「ナウな髪型」と「ナウい髪型」はどう違うのだろう、などと考えてしまう。文学部の性。
はい、また来ます。
夏は冷やし中華。
一世を風靡したあの人は、高校の大先輩。
蝉を見ない夏なんて、無い。
益田で雪舟の郷記念館に寄ろうと思ったら休館だった。
ざつ。
夕暮れ時に津和野に着いた。
お店はほとんど締まっていた。
太皷谷稲成神社。
夕暮れ時。
黄昏時。
誰そ彼時。
もしかしたら、どっか違う世界に連れて行ってもらえるかもしれない。
何て期待してしまう。行けるなら、どこがいい?
チラリ。
石州瓦。
暗いと微ブレしている。
精進が足りない。
反省、反省。
ご飯屋さんはあまりどこも無かったのでポプ弁。
ローカルコンビニ、好き。
最終的に湯田温泉まで移動して、ビジホで寝た。
野宿した次の日のホテルはどれも3つ星。
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