『雪の飛騨ツーリング』 1日目 下呂〜高山 

時は2023年1月末。
「10年に一度の寒波が来ます」
この旅に出る前に、よく耳した言葉だった。

ならば自転車で走りに行こう。

そうなるのは少々飛躍があるかもしれないけど、雪道走行を好む人にとってはおのずと理解してしまう概念なのではないか、とも思う。
12月の半ばから、近県のライブカメラをずっと見ていた。「ああ、ここは安定して積雪路面だ」あるいは「ここは案外雪が無いな」などなど。

そんな色々を勘案して、この寒波のタイミングで岐阜の下呂~高山~白鳥に行くことにした。ここなら全体的に標高がある上に、気温も低い。寒波が来るタイミングなら積雪が楽しめるのでは、と。


金曜の夜、定時の1分後に退勤の打刻を済ませ、新快速に乗り込み一路岐阜へ。土曜の朝に下呂にいるためには、岐阜での前泊が必須だった。

岐阜に近づくにつれ雪が増える。
前日だと言うのにテンションが上がる。



岐阜駅前のビジホで一泊。


翌日、真っ暗な中、始発の高山本線に乗り込み北へ向かう。
徐々に日が昇り辺りが明るくなるにつれ、山肌が白く化粧をしていることが分かってきた。否応なくテンションが上がる。これはこれはこれは…!




下呂駅にて下車。
この日のルートは以下の通り。



下呂駅前の通りでご覧の通り。
すでに路面は仕上がっており、凍結路面。求めていた路面を見て心のなかでガッツポーズ。でも、まさかここから先50km以上ずっと積雪路面だとは、夢にも思わなかった…。



飛騨川の左岸側を走る県道88線を走る。反対側は国道257号線。こういう片方の岸の道が主要交通を担う場合は、必ず反対側の道を走るようにしている。そのほうが走りやすいし、絶対楽しい。



ひゅっと伸びる素晴らしい凍結路。
本当に素晴らしい。
求めていたのは、これだ。


萩原を過ぎたあたりで川沿い別れを告げ、山側へ切り込んで行く。


この辺は割とグイグイ登った記憶。
スパイクタイヤは、1本で1kgはあるので、2本合わせて2kgほど。ホイールは前後で1600g。つまるところタイヤのほうがホイールよりも重い。そんな超重力級タイヤに加えて金属の鋲の走行抵抗が加わる。体感の斜度は常に1.5倍。

そんなタイヤを履いてでも見たい景色がある。
そんなタイヤを履いてでも走りたい道がある。
青い空に輝く白銀の道は、魔性の道である。





白銀の世界はモノクロで撮りたくなる。
フィルムシミュレーションの中でも評価の高いモノクロのACROS。パリッとしたモノクロの写真に思わず嬉しくなる。

カメラ関連でついでにレンズの話をば。
今回持ってきたのはXF50mm f2の一本のみ。フルサイズ換算だと大体75mm。標準寄りの中望遠ということで「ちと狭いなあ…」と思うこともあったけれど、構図を整えやすく、レンズ自体の性能も◎。

最近この単焦点レンズ一本のみの体制に妙にハマっている。まだ上手く言葉になっていないのだけど、その画角の感覚が体に馴染んで、その画角の「眼」になる感覚が好き。このへんの話は、自分の考えがもっときちんと言語化できるようになったら、どこかでまとめようとは思っている。





馬瀬の集落を抜けると、交通量と減り、幅員は狭くまり、路面の積雪量は増えた。







交通量はほとんどない。
地元のおっちゃんの軽トラ何台かとすれ違ったけど、本当にその程度だった。


この道には、分かりやすい絶景はない。
でも、時々山が開け遠くの山が見え、その景色が言いようがないほど素晴らしい。

僕は、ツーリングでは絶景の見える「点」を繋ぐよりも、走って気持ちいい道を「線」で繋ぎたい。そこにこそツーリングの醍醐味が、自転車で旅に出る理由がある。





それにしてもこういう道、気持ち良すぎないか…?


トンネルをいくつか抜け山を越えると、国道472号線と合流し、国道257号線との重複区間になる。この国道472号線は、別名飛騨せせらぎ街道と呼ばれている。

国道257号線に比べれば交通量は増えるものの、こちらもゆるゆると流すように進み続けて行くのが気持ちいいタイプの、ツーリング向きの道だった。





「せせらぎ街道」の別称の通り、馬瀬川をそばを走る。ただ、冬で流量が少ないからか、あるいは雪が音を全て吸い込んでしまうからか、「せせらぎ」は聞こえなかった。



せせらぎ街道は西ウレ峠(標高1113m)を越える。

峠付近は積雪量が更に増え、斜度も高くなる。グッと漕いだ瞬間の最初のコンマ何秒か、タイヤが雪を掴み損ねて空転する。路面にあるのは雪なんかじゃなくて、片栗粉なんじゃないか。「思ったより進まねえなあ」とポツリと口にしてしまうほどだった。



この辺りからは灰色の雲が増え、白い雪が降ってきた。

この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ
 ――― 宮沢賢治「永訣の朝」


西ウレ峠に到着。


ここからは高山までほぼずっと下り。上りが終わったことに、ホッとするのもつかの間、今まで以上に気を引き締める。この路面にこの斜度。誰がどう考えても、下りのほうが危険が危ない。



雪面の低いコントラストに目を凝らし、車の走行跡が作った凹凸を見極めてライン取りを慎重に行う。一度、ライン取りをミスって雪にハンドルが取られて慌てて停車。昨年、馬坂峠とかロングダートを走ったりしてそれなりに走れる気になっていたけど、全然そんなことなかった。これは本当に反省。




高山に近づくにつれ、降雪量も増えてきた。
車に気が付かれず轢き殺されるのが怖いので、後ろを確認する回数を増やしながら進む。








平坦路になるあたりで路面の雪が消えた。
この辺りからは、民家が多く融雪剤を多めに撒いているのかもしれない。とはいえここまでトンネル除き、50km以上全て積雪路面。大満足。


高山市街で遅めの昼食。
疲れたときは、なんか揚げ物が食べたくなる。

あとはゆるっと流して本日のお宿、サクラゲストハウスさんにチェックイン。



薪ストーブがいい感じ。






素泊まりなので晩御飯は外で。


雪が降っていたので、晩御飯の帰りがてらフラッシュ焚きながら写真を撮って見たけれど、全然上手く行かずショックを受けたりしていた。ただただバッテリーが減っただけ。これは精進が足りない。

そんな反省とともに夢の中へ。

続く。



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