『雪の飛騨ツーリング』 2日目 高山~白鳥 

素泊まりの朝は早い。
いや、早くするための素泊まりだ。

朝の肌寒い空気が充満するゲストハウスの共用スペースでカップ麺をすすりながら天気を見る。終盤は降られそうだが、それ以外問題なさそう。

さて、今日もいい一日になるだろうか。
旅の朝はそういう不安が入り交じる。楽しみワクワク感100%なんてことは、まずない。良い景色が見られるかとか、そういう方向の心配ではない。むしろ、安全にゴールに辿り着けるだろうか、装備は問題ないだろうか。そういう心配が心の半分を占める。

さあ、今日はいい一日になるだろうか。
不安とともに雪道を踏みしめて走り出す。

この日のルートは以下の通り。




道の駅「ななもり」の脇にある高速道路の入り口を過ぎると車はめっきり減り、世界には雪と自分になった。


狙い通りだ。
心のなかでつぶやく。

山をトンネルで貫く高速道路が並行して走るこの区間で、羊腸のように曲がりくねった凍結路を走る人はそうそういないだろう。そう踏んでいたけれど、その予想はバッチリであった。




最初に越えるは小鳥峠。
国道158号線に位置し、最高地点は丁度1000m。高山市街が600m弱なので大体400mほど登る計算。距離は10㎞以上あるので斜度は緩く、優しめの峠。さらに言えば登坂車線まで備える道だったので、かなり走りやすい道だった。



上りやすく、かつ車が来ない。
最高だな、これ。


力を込めて漕ぐと、雪を掴みそこねて「ズズッ」と後輪が滑ってしまう。雪道のトラクション管理は砂利道と同等か、それ以上に気を使う。

そんな感じで淡々と上り、峠に到着。



気温はご覧の通り。
この寒さが火照った体にちょうど良い。



下りも景色は素晴らしく。

いつの間に雲が切れていた。
日の光が差し込む。
雪を被った木々が白く輝く。



ガガッと下って飛騨清見。
東海北陸自動車道が上を走る。
高速の方はそれなりに交通量はありそうな感じ。

でも、自分がここまで行きあった車は両手で足りる。この区間は、みんな高速を走るだろうという自分の読みはやっぱりバッチリだった模様。


飛騨清見ICを過ぎ、ここから進路は南へ。
この辺りの数キロが、この旅の最も素晴らしい区間だった。






「ここは北海道か…!?」と思うほどの白銀路。

いや、北海道でもここまでバッチリの圧雪路かつ晴天というのも、探さないとないんじゃないか。少なくとも去年北海道に行ったときは、探さないとなかった。

特大のニンマリが溢れたのは、ここに書くまでもないことだろう。



嗚呼、素晴らしき哉。




高速道路を横目に緩やかなアップダウンを繰り返しながら、松之木峠へ登っていく。


松之木峠到着。
こちらも1000m超の峠道。


残念ながらこの辺りで青空とお別れ。
曇天の中を進む。







六厩を過ぎると、路面はウェットやシャーベットが混じるようになった。シャーベットは、タイヤを取られたりシャーベットごと動くことがあるので、注意を払いながら下っていく。



牧戸でト路を左折して、ひるがの高原方面へ。
ちなみに、曲がらずこのまま真っ直ぐ進むと、合掌造りで有名な白川郷。


ひるがの高原手前から雪が降り出したので、ゴーグルを装着。目の保護は基本サングラスで、雪が降ってきたり寒かったりしたらゴーグルという使い分け。


この辺は多少の交通量があったので、後ろをこまめに見ながら進む。


ひるがの高原はスキー客で混雑していたので県道へ。このまま国道を進むという選択肢も考えていたけれど、ちょっとそれは難しそうだな、と。




この写真好き。
モノクロ写真、もっと上手くなりたいんだよなあ。




路面は写真の通りで、引き続き積雪路面、シャーベット路面、ウェット路面とがシャッフルで現れるミックス路面。



と、いいつつ、高鷲のあたりからは積雪量が増えて基本積雪路面。

凍結路面ではないから、トラクション管理がよりシビアに。基本上りは立ち漕ぎを混ぜて走りたいタイプなのだけど、雪道ではそれが封じられてしまうのが辛い。



県道321号線から県道316号線を繋いでいく。
この2つの道は「やまびこロード」と呼ばれているようだったけど、「やまびこ」どころか車の音も雪のせいで近くに来るまで聞こえない、静けさが支配する道だった。


途中、除雪車のおっちゃんから「こんな雪の中、危ねえど。おにいちゃん、途中まで乗っけてくか?」なんて話かけられたりした。

きちんと雪道用に準備してきたことを伝えて、丁重にお断りしてリスタート。いやまあ、確かにこんなとこ一人で自転車で走ってたら、普通に心配するよなあ、とふと我に返って思ったりした。


このあたりまでずっとアップダウン。
走行距離は70㎞を超え、獲得標高も1000mを超えていた。
正直、体力的にかなりキツかった。

雪道の50kmは普段の100kmに、獲得標高1000mは2000mに相当するくらい体力を消耗する。スパイクタイヤの重量と走行抵抗に加えて、踏み固められてない新雪のフカフカさ。それらが相まって、体力が壊れかけのスマホのバッテリーの如くみるみる減っていく。



ようやく下り。
ルートとしてももう最終盤。
しんしんと降る雪も、もう終わり。



この辺りから路面から雪が消えた。ウェットになった路面を、スパイクタイヤをジャラシャラ鳴らして一気に標高を吐き出して白鳥へ。


大島駅にてこの日は終わり。

白鳥というそれなりの大きさのある町にある駅だから、そこそこ大きい駅なのかと思っていたけど、待っていたのはこじんまりとした可愛らしい駅。

見ている分には可愛くて良いのだけど、コンクリート打ちっぱなし、暖房なし、扉が閉まらないという三拍子のこの駅は、この上なく底冷えした。この日一番寒かったのは、1000m超の峠でも、数キロに及ぶダウンヒルでもなく、ダントツでここ。凍えるかと思った。


線路もだいぶ雪で埋まってたりして、正直、「ほんとに電車来るのか?」とちょっと不安になったりもした。



小一時間凍えながら待って電車に乗る。
本当に電車来てホッとした



あとはディーゼル車独特の振動に揺られて帰るだけ。外を見ながら、「ああほんとに雪道走ってたんだなあ」なんて思いつつ、時々疲れに身を任せて微睡みつつ。









美濃太田駅で乗り換えて、新快速で家に帰った。



寒波のおかげとはいえ、2日合わせて100km以上の積雪路面を楽しめたのは本当に良かった。積雪路面を楽しむには北海道に行くのが一番と分かっていても、なかなかそれには諸々ハードルがある。そういう意味で、そう遠くない岐阜で楽しめたのは、本当に良かった。

…まあ、このライドで抑えきれなくなって北海道いったんですけど。

北海道に行った話はまた次回以降の記事に譲るとして、この話はこの辺で閉じよう。さて、来年はどこが楽しめる路面になるだろうか。それが今から本当に楽しみ。だってまだまだ楽しめそうところはありそうだから。

おしまい。





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