『初夏中国地方旅』 1日目 姫路~鳥取

思い立ったが吉日。
一泊二日の中国地方旅。
初日は姫路から鳥取へ。


新快速で姫路まで。
姫路駅出発。
天気は真夏の空気を含んだ6月の晴れ。
暑い。
着ていたベストを脱いで走り始めた。


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姫路周辺はさすがに車通りが多いが、10㎞も走れば車はへる。
「日本の里山」の理想的な山村風景が広がるようになった。



宍粟(SHISO)。

「朝来」とか「養父」とか兵庫は難読地名が多いと思う。よく考えれば「播磨」だって「伊丹」だって、さも当然という顔で地図にでかでかと載っているけど、初見だったらまず読めない。

そんなことを考えながら北へ北へ。





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昼食は「道の駅 ちくさ」で。


ここ千種は、ツチノコで盛り上がった土地らしく、鹿肉をツチノコに見立てた「つちのこロースト(鹿肉)」を食べた。

願わくば本物のつちのこを見てみたい。

影の落ち方が夏のそれ。


腹も満たされたところでリスタート


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ここからはちくさ高原への登りになる。



日が照る。
影が落ちる。
気温が上がる。
汗が落ちる。
ひたすらに暑い。



千種川沿いに進む。
暑すぎてドボンしたいが、金槌なのでいつも自重している。




中国地方らしい看板が見える。

「もののけ姫」というと、その景色から屋久島が聖地のような扱いを受けるけれど、文化的に考えたらどう考えても中国地方だよなあ、といつも思う。

この「天児屋たたら遺跡」まで行こうか悩んだけれど、方向が明らかに登りで、しかもあまりに暑かったのでパスしてしまった。こうしてブログを書いている今、そのことをちょっと後悔している。

「やらずして後悔するより、やって後悔」ってのは、人生において「やって後悔」した記憶があまりに多すぎるので全くあてにしてないが、ことサイクリングの時はいっときゃよかったってことの方が多い。(行かなきゃよかったもあるにはある




ちくさ高原は特にこれと言って見どころがあるわけではない。
普通の高原道路だった。

正直暑すぎてあまり記憶にない。
暑熱順化が完了していない時期の30℃越えは、体に応えた。



登りきりで県境。
岡山県へ。



ちくさ高原を下ると、志戸坂トンネルをくぐる。
歩道を走っても感じる交通量の多さ。
智頭往還と呼ばれていたころから変わらず、今も姫路と鳥取の大動脈のようだった。


今度はトンネル内で県境。
鳥取県へ。


トンネルを抜けると、駒帰集落という美しい集落に出る。

その名前から分かる通り、あまりの険しさに馬が引き返すほどの難所だった志戸坂峠。トンネルで山をぶち抜いてしまう現代では、難所だという感覚は全くない。

こういうとき、MTBとか買って旧道を走るサイクリングでもやってみようかなとか思ったり思わなかったりしたりしなかったり。


トンネルを抜けた先のこの道も国道だが、上を走る鳥取自動車道のおかげで交通量は少なく快適(志戸坂トンネルは国道と自動車道の共用なので交通量が多い)。



中国地方らしい「山・集落・田畑・川」の見事な調和を見せる快走路が続く。
これは「当たりの道」だ。
こういう道を走りたくてここまで来た。
素晴らしい。



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暫く走ると智頭宿に至る。


智頭宿は因幡街道の宿場町。
そして、今でもその面影を残している。

現在でも国道53号と国道373号がぶつかる交通の要衝に見えるが、栄えたというのも今は昔。落ち着いた、ともすればすこし淋しい雰囲気さえある場所だと感じたのは、日が少し傾き始めた時刻だったからだろうか。




みぎひめじ大坂
ひだり鳥とり、だろうか。





重要文化財石谷家住宅。

この石谷家は、近世・近代に栄えた一家のよう。
この住宅が、建てられたのはものすごく古いわけでもないらしく、大正から昭和初期。
(と言っても、もうすぐ100年になるが)

時間に余裕があったのと、あまりに重厚な存在感が気になったので、中に入ることに。



土間からしてものすごく広い。
そして天井が高い。


梁の迫力。



寒い地方ならではの広い土間、ということらしい。
こういう説明があると楽しい。

……なんだけど、最初は「ですます調」の敬体なのに途中で意味不明に常体になるの、読んでてそっちばっかり気になって内容があんまり頭に入ってこないからやめてほしい…


中へ。
観光客はあまり、というよりほとんどいない。
静かだ。







使っている床材も、大変上質のものなんだなということが素人目にもひしひし伝わる。こういう地方の資産家の旧邸宅は好きで時々訪れるけれど、自分の記憶の中では、「上等のものを使って建てたんだな」ということが一番伝わってくる建築だった。





いろはにほへとち
りぬるをわかよた
……


窓から鋭く差し込む柔らかい初夏の光。






二階。
じりじりと照らされた真っ黒の瓦。


伯耆大山の欄間彫刻。
鳥取だ。



住宅内に軽食を食べられるスペースがあったのでアイスを。うまい。


近代和風建築の傑作。



一周して外に出た。
いくぶん空が黄色くなっている。
思ったより長居していたようだった。



気が付けば弁柄色の屋根。
もう山陰だ。


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智頭宿を後にして国道53号線を北上する。


国道53号線と合流したせいか幾分交通量は増えたが、「山・集落・田畑・川」の見事な調和は変わらない。

多分、ずっと前からこういう美しい景色だったんだろうなと思う。







このまま国道53号を北上すれば鳥取に着くが、国英の辺りでちょっと遠回り。
寄りたい場所があった。



それがこの中山展望台。

国道のやや東側、県道293号線(鳥取郡家線)に位置する。
何でもない田舎の風景が見られる、標高だって大したことのない展望台だが、ここから見えた景色は心の底から本当に綺麗だと思った。

夕暮れ橙の光が弁柄色の屋根に光り、田が青々と風に靡く。
この季節、この時間に訪れて本当に良かった。





展望台を過ぎればすぐ鳥取市。
ここまでくれば、宿までもうほんの少し。





最後まで素晴らしい田園を抜けて宿へ。
宿に着いたのは6時半ごろだったがまだ外は明るい。
さすが6月。日が長い。


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宿に着いて、荷物を置いて身軽になった体で銭湯へ。
汗を流す。熱い湯に浸かる。
体から疲れと共に、日々の澱が流れ出る。
風呂から出てコーヒー牛乳をぎゅっと胃に流し込む。
こめかみから滴る汗を古ぼけた扇風機の風で乾かす。
最高じゃないか。


体が極まった後はメシ。
どうやら近くに猪之頭五郎なる男が食べたご飯屋があるらしい。

面白そう。
行ってみよう。
今宵は俺が猪之頭五郎だ。


人気店のようだったけれど、あまり待つことなく店内に案内された。
鉄板のあるカウンター席がぐるりと囲う。
カウンター席がメインのお店だった。




定番メニューのホルモン焼きを。
ホルモンそばと悩んだけれど、麺より米の気分だったので。
旨い。
旨さとそれ以外の何かが五臓六腑にしみわたる。
それをぼんやり感じる瞬間の幸せ。


ちなみに大将はロードに乗るらしく、一人でサイクリングしていることを伝えると「いいなあ、一人は。気楽だよなあ。坂とか脚力気にしなくていいもんなあ」と。

その他にもいろいろ話をしたけど、それはメシの旨さとその場限りの愉しさで吹き飛んだ。旅の一コマなんて大体そんなもん。

旅の愉しさが全部持って帰れるなら、旅になんて出ない。忘れるから、その場限りの愉しさがあるから、また旅に出る。




最後はおでんで〆。
はちきれそうな腹を抱えて宿に帰った。



つづく。



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