朝からすでに突き抜けるような青空だった。
地面に落ちる影は墨のように黒く、日差しは体を突き抜けるほど強い。
この日もまた、既に猛暑になっていた。
最初は海へ向かわず山へ。
県道346号線で峠を越える。
集落の間を抜ける用水路のような場所でもこの美しさ。
県道21号線、市野瀬川沿いに海を目指す。
木々のトンネルが開けると、足摺岬駐車場。
寒い駄洒落はともかく、道は素晴らしい景色だった。
楽しそうに泳ぐ魚影がはっきりと見えるほど。
山道は清々しい。
実際、街中よりも5℃くらい気温が低い。
もはや人の住んでいる場所には存在しなくなってしまった「夏らしい涼しい朝の爽やかな空気」を、肺を限界まで広げて吸い込んだ。
朝の清涼さを十分に含んだ光が、葉を透過して緑色になって降り注ぐ。
この上なく好き。
路面状況は上の写真の通り。
車はほとんど通っていないのだろう。
苔むした道の轍は薄く、落枝落石落葉は多い。
谷筋を超える時にふと視界が開けた。
昨晩過ごした中村の町を遠くに望む。
「だいぶ登ってきたもんだ」と思うこの瞬間は、自転車に乗っている時間の中で最も好きな時間の一つ。
ほどなくして峠に着いた。
「なんでこんな使用者も少なさそうな山道が県道なのだろう」と不思議に思ったけれど、古くからある峠道で、かつ信仰の対象が存在したからなのかもしれない。他の理由もあるのかもしれないけど、ひっそりとしたこの峠の歴史に触れ、今までの変遷に思いを馳せる瞬間は、とても好き。
「民」に補空が打たれている。
こういう手作り感ある看板、好き。
峠の下りも先に上げたような路面状況。
いつ滑ってもおかしくなかったので、慎重に下った。
CORSA CONTROLを信じていこう。
峠を抜け日なたに出るや否や、頼んでもないのに朝よりもさらに「もわっと」した空気が出迎えてくれた。慌てて自販機で水を買う。今年の積算温度はすでにかなりの状態になっているんだろうなと思いながら、頭を垂れ始めていた田んぼ眺めながら進む。
早稲だろうか、既に稲刈りの時期だった。
県道21号線は狭路と快走路が混じる。
鈍走と快走とを繰り返していると、いつの間に海だった。
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大岐の浜。
写真右に人が集まっているのは、サーフィンしていた人が波に巻かれて救急搬送されている場面だったから。
展望台でその様子を一緒に見ていた地元のおじいさんが「毎年だよ。毎年、サーフィン客が波に巻かれて死による」と遠くを見ながら言っていたのが、なぜだか強く印象に残っている。
以布里からはR321から逸れて、足摺岬を目指した。
足摺岬までの道は海沿いを通っているから海が見えるものかと思っていたけれど、見えない時間の方が圧倒的に長い、”海に近いだけ”の普通の道だった。
足摺岬が近づくにつれ、植生が南国のそれへと変化した。
扁平に広がる木の根も、細くて丸く絡みあうように伸びる木々も、地面に落ちる葉の影の形も、生活圏内でよく見るそれらとは明らかに違う。
「果て」が近い。
そう思うとテンションが上がった。
駐車場から展望台までは徒歩ですぐ。
展望台に出ると、堂々とした灯台が絶壁に聳えていた。
足摺岬の近くには四国八十八カ所霊場 第三十八番札所 金剛福寺がある。
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半島の西側の海側は「ジョン万黒潮ロード」と呼ばれているらしい。
その道を行く。
2車線快走路かと思っていたが、ほどなくして狭路へと変わった。
やはり植生は南国。
道中、気になる看板を見つけたので自転車を置いて遊歩道へ。
結構いい勢いで下る。
足元は悪くSPDとはいえ「ちょっと怖いな」と感じるタイプの遊歩道だった。
遊歩道を抜けるとこの展望。
海の青さにジャアジャアと岩にぶつかる波の音。
強めの海風が吹いている。
遊歩道の時点で気が付いていたけれどマイナースポット。
ほとんど人はいなかった。
戻るときもちょっと怖かった
森を抜けると海にでる。
空には入道雲がすくすくと育っているのが見える。
夏だ。
何度目かも分からないくらいに思う。
夏は、そのくらいがいい。
社会人の生活は季節に疎すぎるのだ。
再びR321に合流。
このR321は「サニーロード」と呼ばれる。
「321」で「さにい」なのだそう。
なんだろう、この「知らなきゃよかったな」感は。
このままR321を北上すれば宿に着く。
が、ここでちょいと寄り道。
国道を逸れて樫西という場所へ向かう。
この道は『ツーリングマップル』で紫で縁取られた道。つまり「おすすめルート」。しかしそれ以上の情報は何も知らない。ツーリングなんて、そのくらいがちょうどいい。「知らなきゃ辿り着かない道」ってのは確実にあるが、「知ってしまうと辿り着かない感動」ってのがある。だから、そのくらいがちょうどいい。
山を越えると集落が見えてきた。
見どころは集落より北
。
写真で伝わるだろうと思う。
いちいち説明したくない。
こういう景色が見たかった。
こういう景色が見られてよかった。
短い距離にグッと詰まった景色で、すべて満たされた。
R321に復帰して宿のある宿毛へ向かう。
松田川を渡れば宿毛の街並み。
今日はここでおしまい。
晩飯のトンカツが妙に旨かった。
つづく。
実際走ったルート。
走行距離:132㎞ 獲得標高:1265m |
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