Shin服部製作所 オーダーフレーム

クロモリオーダーフレーム、というものを手を出しました。

クロモリバイクに乗る人だと、一度は憧れたことがあるという人が多いのではないでしょうか。もちろん私も例に漏れず。前々から「いつかは」と思っていました。その「いつかは」を「今」にしたわけです。

このタイミングでオーダーした動機は色々とありますが、一番大きかったのはリムブレーキの”オールロード”に乗りたいというところ。

オールロードという言葉は、「ランドナー」「スポルティーフ」という用語と同じくらい様々な人が様々な解釈で使っているので難しいところですが、個人的には荒れた舗装路から整ったグラベルまでの用途の自転車という認識。具体的には700×32cくらいまでのタイヤクリアランスのロードバイク、という感じです。

それのリムブレーキ版が欲しいと。
例えば、Surly Pacer/All-City Mr.Pink/Cielo Sportif/BreadWinner Continental みたいなバイクが欲しいなあ、と。
とはいえ、上記したバイクは終売だったりいろいろあって手に入りにくいし、フルオーダーというのは前々からやってみたかったというのもあり、フルオーダーに。

■Shin服部製作所

フルオーダーすることを決めても、どこにオーダーするか。
これがまた頭を悩ますところ。
結論から言うと、今回はShin服部製作所にしました。

Shin・服部製作所 オーダーフレーム

Shin・服部製作所 オーダーフレーム

なぜか?
まず一つは、人柄です。

shin服部製作所の服部さんは「さくれい」というポッドキャストをされています。で、そのポッドキャストを聞いてみると、穏やかで話し好きな人なんだろうなあ、という印象を受けました。

やっぱり人柄って大事です。
オーダーフレームなら特に。

例えば、工房に入って「……どうぞ。」「…………で、どんな用で?」みたいな沈黙と眼光の鋭さが苦しくて困ってしまうような対応はされないだろう、と思えることは、計り知れないほどの安心感がありました。あるいはビルダーとして考え(エゴ)を押し付ける人でもないだろうな、とも。そんなことされたら、初心者の私はたまったもんじゃないので。



二つ目は、上記したようなアメリカンバイク系の造詣が深いこと。
服部さんはアメリカでビルダーの技術を学び、帰国して工房を開いたという経歴を持っています。競輪をバックボーンに持つビルダーが多い日本では珍しい経歴といってもいいかもしれません。

Cieloの日本での修理も請け負っている服部さん。
自分のイメージと上記したバイクの名前を伝えるだけで「あーはいはい、いいですね、うち、そういうの得意ですよ」と。
オーダーフレームという、言葉で伝えきれないものを何とか伝えなければいけない状況で、共通認識があるってよいなあと思ったわけです。

ついでにBreadWinner Continental のフォークを見せてもらったりなんかも。BreadWinner は Continental 以外の車種を含めても実物を見たことがなかったのでちょっとびっくりしましたが。

Shin・服部製作所 オーダーフレーム

三つめは服部さんも大学サイクリング部出身ということ。
自分と服部さんは出身大学は全く違うし、年齢も多少離れているので一緒くたに語るのはかなり危険です。でも、大学サイクリング部出身の自転車乗りとそうじゃない自転車乗りって、なんとなく香りが違うと思うんですよ。これは自分の直感的な部分なのですが。

もうすこし正確に言うなら、きったないサイドバッグにきったない鍋とテントを積んできったない身なりをして複数人で走ったことのある人とそうじゃない人だと、なんかうまく言語化できない感覚を伝えるときの伝わり方が違なあ、と。

それから、自分が欲しかったのはツーリングバイクでした。
あくまで、それが世間一般的にオールロードと呼ばれる類のバイクに近いと言うだけで、用途は旅。ツーリングです。そして、それは大学サイクリング部のランの延長線上にあるものです。だとしたら、共通のバックボーンがある方が良いな、と。

そんなこんなでオーダーすること8か月。
長かった……。

というわけで実物!

Shin・服部製作所 オーダーフレーム



■ジオメトリー

パーツは暫定なので、ある程度固まったら別記事で紹介するとして、まずはジオメトリーについて。

Shin・服部製作所 オーダーフレーム



まず目を引くであろう箇所がBBドロップ。
67mmという、浅めの設定になっています。
これは自分からお願いしたわけではなく、服部さんからの提案。
曰く「現代的なバイクに乗り慣れた人にはBBドロップが大きいと車体の加速感をモタモタしたように感じる人が多いのでは無いかという事で私自身も心当たりがあったので」。

ちなみに他の類似バイクで同じくらいのサイズを見比べてみると

・Surly Pacer…72mm
・All-City Mr.Pink…70mm
・Cielo Sportif…73mm
・BreadWinner Continental…75mm

All-City以外は各社とも若干深めにとっていることが分かります。
32cという太目のタイヤを履くことを想定し、BBハイトを標準的な範囲に収めるための数字といったところでしょうか。そう考えるとオールロードでBBドロップ67mmは、まあまあ浅めです。

実はここ、少し不安でした。
浅いBBドロップの自転車は、過去に所有したものだとオールドMTB以外では未経験。でも、せっかく新車なら新しい実験的なことも盛り込んでいこうと思って、GOサインを出しました。

で、実際どうだったか。
めちゃくちゃ良かったです。
いままで持っていたバイクより明らかに加速性がいいのです。
グングン・ぐいぐい進む、といった印象です。

果たしてこの浅いBBドロップが、どれほど加速感に貢献しているかは不明です。一般的にはBBドロップが浅い方がかかりがいいなんて言われますが、それを確かめるにはBBドロップだけを変えた自転車に乗らなきゃいけないはず。自分はそんなことできていないので、はっきりとしたことは言えません。

これは勘ですが、ジオメトリー以外の要素もあるんじゃないかと踏んでいます。パイプの径とか厚みとかバテッドの具合とか。だって、ジオメトリーってそんな単純なもんじゃないと思うし、ジオメトリーだけが自転車じゃないと思ったりするので。

少し話は逸れましたが、「モタモタしない加速感」という服部さんの狙い通りになっていることだけは確かです。



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シート角は75度と気持ち立ち気味に。
これは、オフセットバックのあるシートポストが使いたかったからです。
オフセットバックの有無(正確にはシートポストとサドルの位置関係)で、サドルバックのストラップが通しやすくなるから、というのがその理由です。
シート角が寝てしまうと、低身長(&短足)ゆえストレートシートポスト使わなければなりません。この辺の自由度はオーダーならでは。

Shin・服部製作所 オーダーフレーム

あと、明確にオーダーしたわけではありませんが、トレイルが59mmというのもGOOD。
All-City Cosmic Stallionは、直進安定性はあるもののコーナーリングでグッと切れ込む感覚が強すぎる(トレイル量が大きすぎる)感覚があって、挙動にピーキーさを感じていたので、それもオーダー時に伝えていました。
別に伝えていなくても標準的な数字に収めてもらえただろうとは思いますが、ここはオーダーする際で大事にしていたという意味で、良かったと思います。

実際、このフォーク本当に良くて、目先の軽さに飛びついてカーボンフォークなんかにせず、セットでオーダーしてよかったなあと心の底から思います。


■フォークについて

先にちょっとフォークの良さに触れましたが、本当にこのフォークが良かったのでもう少し掘り下げます。

まずヘッドの規格はOS。
1インチという選択肢も無きにしも非ずでした。
ただ、手持ちのバイクを思い返すと、1インチヘッドのTOEIのランドナーやGIOS AMPIOの剛性の感じよりも、OSのKONA Sutraのほうが好きだったのでOSに。

TOEI ランドナー


GIOS AMPIO


KONA Sutra


服部さんも「OSが良いと思います」と。
それから続けて「実は、OSのヘッドチューブに1インチのフォークを差すのが、個人的には一番いい剛性バランスになると思います。Cieloが昔やっていたんですよ。でも、ChrisKingがOSヘッドに1インチフォークさせるヘッドパーツ作るのをやめちゃったんで、いまはできないんですけどね。」とのこと。

さらに「その剛性バランスを出すために、フォークは他のバイクと比べて薄めのパイプ使う予定です。Cieloも軽いパイプを使っていたりしていたんで。修理を請け負っているとそういうの分かるんですよ。」とも。

Shin・服部製作所 オーダーフレーム

実際に出来上がったフォークを見ると、スターファングルナットがかからないぐらい薄めのパイプでできていました(なのでプレッシャーアンカーを使用)。

で、これが乗ってみて本当に良かったのです。
平坦や登りの時、特に立ち漕ぎなんかをするとそのちょうど良さを感じる…というより存在を忘れるくらい自然な操舵感と剛性感

そして、フォークの良さを最も感じるのが下り。
それもテクニカルなやつ。
路面状況を掴みやすく、かつ荒れた路面からははじかれにくく、ビビったりもせず、操舵も思うまま。どこまで倒していいかが分かりやすく、親父からもらったオールドMTBから数えて「スポーツバイク」と呼ばれるものは7台目ですが、今までのバイクで一番安心して下ることができるバイクに仕上がっていました。これは本当にびっくり。

「今回のオーダーの肝」と言ってもいいくらい重要視していたフォーク。その部分にいろいろ工夫を凝らしてもらえて、その良さをちゃんと感じる。オーダーフレームの醍醐味だなあと思います。


■フレーム重量

フレーム重量は1600g程度でフォークはカット前で750g程度。
自分の背が低いというのもありますが、ノーマルでなくてOSということを考えるとまあまあ軽量(計測写真は撮り忘れた)。

使用パイプはコロンバスのゾナを中心に適材適所とのこと。
正直パイプの種類なんて教えてもらっても、ネットに転がっている当てにならないレビューくらいしか分からないし、「ツーリングバイクはカイセイの022でなければだめだ!」みたいな厄介マニアでもないので。
ちなみにAll-City Mr.pinkはコロンバスのゾナだったはず。


■まとめ

まだそんなに距離は乗っていないので、最終的な判断は保留にするとしても、現状とても満足度が高い新車。とりあえず気後れせずバンバン乗り回していきたいと思います。乗っていくうちに傷もつくだろうけど、それも味。

パーツの紹介に関してはもう少し後に(せめて半年は乗った上で)、良い風が吹いたら書こうかなと思います。ずるずると後回しにして、その風が来年の春一番とかにならないようにしようとは思います(頑張れ半年後くらいの自分)。

おしまい!



……
………
…………
……………

■追記:なんでリムブレーキ?

まあ、読んでいる人の中には、そう思った人も多いでしょう。
正直、この話題に積極的に触れたいわけではありません。
だからまとめのあとにしました。
だって、面倒じゃん。

2024年現在ですら、未だにブレーキ論争とかいう本当にどうでもいいしょうもない議論が繰り広げられてる輪界。
「主語をデカくするな、自分の好きなやつに乗れ」で終わりでは? と思うわけです。

とはいえ、じゃあなんで自分がリムブレーキにしたかったのかぐらいは備忘録として書いておこうかなあと思います。言っておきますが、これは私の話であって、あなたの話でも一般論でもありません。この記事を読んでリムブレーキ云々について語りださないでください。マジで面倒なんで。

と、まあ、このくらい書いておいてから進めようと思います。
ざっくり言うと、フォークと重量が大きなカギでした。

◇フォークについて

まずフォーク。
折角オーダーするならフォーク込みで設計してほしいなあ、というのが根底にありました。先にフォークが良かったことは書きましたが、フォークはバイクの性格に多大な影響を与えるものだと思っています。

先述したAll-City Cosmic Stallionのトレイルの話も一つ。それから自分の体感として、Cosmic Stallionはテーパーヘッドを採用しているのもあって、KONA Sutraよりもパイプは細いにもかかわらずシャープで硬めの乗り味に感じます(これは焼き入れパイプという面もあると思いますが)。その他のバイクを思い返してみても、全体の乗り味や硬さなんかは、フォーク(を含めたヘッド回り)とかなり密接な関係にあるように感じます。


フルオーダーしている方のブログを読んでみても、フォークの感触はバイク全体の感触とかなり密接に紐づいていそう、という印象を受けていたので、フォークは一緒にオーダーしたかったわけです。

となると、必然的にリムブレーキになります。
なぜか?
ディスクロードなら、どうしたってカーボンフォークになってしまうからです。

いやいやいや、ディスクロードでもクロモリフォークもあるよ、という方もいらっしゃるでしょう。実際フルクロモリロードディスクをオーダーしている人がいることも、マスプロでそういうフレームを作っているところがあることも知っています。でも、それは自分の求めるものではありませんでした。

ディスクブレーキの制動力を末端で受け止めきるために、太く重いパイプを使用して、しかも左右非対称。自分の求めるオールロードの”ロード”の部分とは真っ向から対立してしまいます。これが、お散歩バイクならディスクにしたかもしれません。あるいはグラベルなら。でも、欲しいのはオールロードなのです。

服部さんとも相談しましたが、「ディスクブレーキのクロモリフォークを作ることはあるけど、話を聞いてる限り、求めているものと違うね」と。


「フォークも一緒にオーダーしたい→リムブレーキを採用」
これが一つ目の大きな理由です。


◇重量について

それから重量。
これについてはやくもさんの記事が詳しいでしょう。

 
このブログが嫌な広がり方をした(文章を読めない人が曲解している)のをみたので、この話題に触れたくなくなっているわけですが。

紹介しておいてなんですが、やくもさんの記事の最後の「鉄のディスクロードの未来は暗い」に関しては懐疑的でいたい、と思っています(懐疑的でいたい、という表現で諸々を察してもらえると嬉しい)。

実は、服部さんもこの記事自体は把握していて、オーダー時に話を振ると「言いたいことは分かるが、うちとしては未来は暗いとは思わない。いろいろと工夫できるところはある」と。実際、Shin服部製作所は2024年のハンドメイドバイシクル展で、完成車重量7.8kgという鉄のディスクロードではかなり軽いバイクを展示していました。しかもPBPを駆ったバイクだというのだから、ただ軽いだけじゃないはず。

そういうバイクがあることや、実際の工夫なんかの説明も聞いたうえで、自分は鉄のディスクロードの未来は真っ暗ではないと思いたい、と思っています。


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それならディスクでいいのでは? と思われるかもしれません。
しかし、話はそう単純ではありません。

服部さんとの話の中で出たのは「重量対金額」
「ディスクブレーキでも軽くはできるけど、パーツはリムブレーキよりお金がかかる面はあるよね」と。

つまるところ、鉄のディスクロードを購入しようとすると、ディスクブレーキにしたいという欲望がどこまでの出費に耐えられるかという面があります。重量差分をお金で解決できるほどディスクにしたいか否か。

ということを考えた時に、自分の軟弱な「ディスクブレーキにしたい欲」は、あっさりと「同じ金額出すならリムブレーキで軽くていいパーツ奢った方が良くない?」という考えに負けました。体重50kg程度の人間がそこまでのストッピングパワー要らなくない? だって君、前後140mmローターで不満ないじゃん、と。

もちろん、All-City Cosmic Stallionというマスプロでは一つの到達点だろうと思えるディスクバイクを所有しているのもあります。が、それはあくまでおまけ。今回のバイクはそういうのは一旦脇に置いて、「自分が欲しいバイクってなんだろう」ということを真剣に考えましたので。

そんなわけでリムブレーキにしました。
くどいようですが、これはあなたの話ではありません。あなたが鉄のディスクロードに乗ろうが、なににしようが私には関係ありません。ここは私の備忘録なので。


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最後の方は話の方向性が変わってしまいましたが、とにかくよかったの一言に尽きると思います。と、同時に「オーダーフレームは3代目で完成する」なんて言葉が「わかってしまう」という思いがほんのちょっとだけあって、「もっと早くオーダーしてもよかったなあ」という後悔があるのもまた事実(決してフレームが悪かったわけではない)。

もし悩んでいる人がいるなら、「早くオーダーして損はない」とだけ伝えておきます。
オーダーフレームはいいぞ!

おしまい。



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