・21日
この痛みは、筋肉の痛みだと思っていた。
背中とわき腹の痛みの事である。
筋トレした後のやつじゃなくて、むち打ち的な。
事故の時に、ものすごい力がかかったはずだし、体にグッと力を入れたはずだから、その反動で損傷したんだと、そんな風に考えていた。
車で家に帰ってから、この日の夕方までは、割と平和だった。
痛みはあるものの、横になっていればそこまで問題はなかった。
おにぎりを食べられるくらいには回復していた。
が、前の記事でも言ったが、話はそんなに簡単ではなかった。
「いてぇな」
痛みで目が覚めた。
時計を見ると針は午後7時半を指していた。
すこし昼寝をしていたらしい。
午前中にはなかった痛みである。昨日、病院で出してもらった痛み止めを飲み、ひたすら耐えた。が、痛みは時間に比例して増していき、ついにトイレへ行こうと思っても、立つことも厳しいような痛みにまでなっていた。
さすがにやばいと思い始めた23時、病院にもう一度連れて行ってもらおうと父親を呼んだ。
「どうした?」
のんびりした調子で父親が聞いてくる。
「痛みやばいから、もう一回病院連れてって。」
「でもな、受け答えも意識もはっきりしてるしなあ。ほんとにやばいか?」
おい、親父、息子を疑うんじゃねぇ。痛いんだよ。
「ほんとやばいから。」
疑う父だったが、決定的なことがあった。
血尿が出たのだ。
尋常じゃない痛みがり方と血尿を見て、病院に連れていくことになった。
「わかった。車乗れるか?立てるか?」
父が聞いてくる。
「むり。家に担架とかある?」
「あるわけないだろう」
でしょうね。僕も見たことないし。
「じゃあ、救急車呼んで。」
「うーん、ほんとにそこまでか?意識はっきりしてるし」
「早くして。ほんとやばいから」
痛みは限界だった。
「119番って119って押せば通じるのか?」
親父よ。それ以外ないだろう。
119番ってのは119番を押すから119番なんだぜ。
父もだいぶテンパっていた。
こうして人生二回目の救急車である。
すぐに救急車は家に到着し、救急車の中で日付は変わった。
・21日
搬送された▲病院は、最初に言った○○病院よりも綺麗な総合病院だった。
病院につくと、問診や採血が行われた。
一人の医師が、救急車に同乗してきた母親に家にいた時の様子を聞いている。
「けがされたのは、えーと、日付が変わって今、21日ですけど、昨日ですか?」
「はい、そうです」
おい、母よ、違うよ。
母親も混乱していた。
「違います。19日にけがをして、昨日の夜から痛みが増しました。」
まともに答えられそうにもない母親に代わって僕が答える。
その後の質問も、ほとんど僕が答えた。
「ではCTを取ります。造影剤を使ったものになります。」
そのままCT室に連れていかれた。
「息を吸ってください。止めてください。はいOKです。次は造影CTとなります。点滴のところから、造影剤を入れます。体が熱くなると思いますが、それで大丈夫です。気持ち悪くなったすぐ言ってください。では始めます。」
すぐにぶわーっと体が熱くなっていく。
凄く寒い日にお風呂に浸かったあの感じが、体の内部から起こっていると言えば伝わるだろうか。電子レンジ入れられたような感覚だった。電子レンジ入ったことないけど。
それとほぼ同時に強烈な吐き気が襲ってくた。
「はい、これでCTは終わりです。気分はどうですか?」
「吐きそうです。」
「吐きそう?ちょっと待ってて。」
慌てた様子で走っていく。洗面器のような器を持って戻ってきた。
「吐くならこれに吐いて。」
そう言われたのと同時に吐いた。だいぶ気持ちが悪い。
搬送された部屋に戻ると、
「尿管さしますね。」
尿管とは、つまり、大事なところに管を入れて、いつでも排尿できるようにするものである。
「ではいきますね」
「ああっ、ンンッッ!!!」
言葉にならない痛みが体を貫く。
「はい、大丈夫です。では次に胃管入れます。」
胃管とは、鼻から管を入れ、胃に通すことで胃の中のものを出すためのものである。
「はい、ではこれを、ごくんって飲んで」
「ごくん」おえ、気持ち悪い。吐きそうだ。
「あ、入りましたね。上手ですね~。」
そうか、上手なのか。褒められても全然うれしくない。
というか、つば飲むときの違和感がすごかった。
「のどに異物あります」感がすごい。
こうして、医療ドラマでしか見たことが無いような全身管だらけの姿になって、CTの結果を待った。
一人の医者がやってきた。
「CTの結果、、、
腎臓と脾臓が損傷していることがわかりました。
ここでようやく痛みの正体が発覚した。
内臓損傷というわけだ。
最初に行った○○病院の医者、ヤブ医者じゃねえか。
腎臓は背中側の臓器で、脾臓は左わき腹の臓器。
場所もドンピシャである。
もう少し後になって説明されたけど、脾臓は豆腐みたいな臓器らしく、この時点で脾臓は半分くらいグシャグシャにつぶれていて、腎臓では出血し、血腫ができていたらしい。
話を戻そう。
医者は説明をつづけた。
「脾臓はカテーテルという治療が必要なのですが、当院ではその治療ができないため、今日の昼頃になったら、隣の■病院に転院することになりますがよろしいでしょうか。」
「わかりました。」隣にいる両親が答える。
「では、時間が来るまで当院に入院という形になります。」
「よろしくお願いします。」
時間はまだ午前1時であった。
その後、病室に連れていかれた。
「では、痛み止め入れますね。これは麻薬のようなもので、かなり強い痛み止めになります。」
看護士が言う。点滴のところにセットしていく。
「はい、入りました。何かあったらナースコールしてください。」
そこで僕の記憶は途切れた。
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起きると午前7時だった。
痛み止めが効いているのか、痛みはだいぶ引いていた。
今思えば、束の間の安息の時間だった。
携帯をいじりながら暇をつぶしていると転院の時間は来た。
「では、今から■病院に行ってもらいます。そこでカテーテル治療をします。移動は救急車になります。」
人生3度目の救急車である。■病院にはすぐ着いた。
■病院につくと、ICU(集中治療室)と書かれた部屋へと運ばれた。
あのICU、集中治療室である。
もちろん人生初である。
ちょっとだけ「うおぉ!」と思ったのはここだけの話である。
「腎臓と脾臓が損傷してるっていうことだけど、どうしたの?」一人の医者が聞いてくる。
「ロードバイクで落車して…」けがをした時のことを説明する。
「たいへんだったね~。治療の準備ができるまでちょっと待っててね。」
また他の医者が来る。
「なんで腎臓と脾臓損傷しちゃったの?」
さっきと同じ説明をする。
また、ほかの医者が来る。
「腎臓と脾(ry」
何回おんなじことを言わなきゃならんのだ。
医者同士で情報共有してくれよ、そんな風に思っていた時だった。
また医者が来た。
今度は若手のクールイケメン医者だった。
また同じこと聞かれるのかなと思っていたが、話は全然違った。
「カテーテル治療の際、下の毛が邪魔になるので半分くらい剃ります。」
クールイケメンが一切表情を崩さず言う。
「ん?」一瞬思考が停止する。
「え?え?下の毛を半分?なくなるってことか?ちょ、ちょっと待ってくれ。今までそこを剃ったことなんて一度もないんだぞ」
そんな僕の心の声を無視して、クールイケメンは病院服を脱がしていく。
「では、剃ります。」
「ウィーン」というバリカンの音が空しくICUに響く。
「終わりました」最後の最後までクールイケメンの表情は変わらなかった。
医者って本当にすごいなって思った。
つづく
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