起きると柔かい布団だった。
パシャパシャしていると宿の方から、「お庭も撮ったらいかがですか」と声をかけられた。そのままホイホイついていくと、中庭に連れていかれた。コンパクトではあったけれど、隅々まで手入れされている中庭だった。そして、中庭に差し込む朝日は、それはそれは綺麗な輝きだった。
ここは、金沢の真ん中にある宿のあかつき屋。
よく眠ることができた。
ぐっすり。
ツーリングの時の眠りは、日々の生活では到達できない深みに達することがある。単純に「朝が早い」というのが、多分一番の理由だろうと思う。旅の時の眠りって本当に大切だと思っていて、その日の満足度のかなりのパーセンテージを、その日の眠りが決めるとすら思っていたりする。この日は布団が柔らかかったからだろうか、良い眠りだった。うん、良い一日になる気がする。
朝ごはんは、昨日コンビニで適当に買ってきたものをささっと食べ、その後は少し部屋を色々と見たり。
昨日の夜撮ったところも多いけれど、そうじゃないところも多かったし、何より朝日が差し込んでいて綺麗だった。なんでもないものでも、光が当たるだけで被写体になるし、それが文化財のお宿なれば、それはもう。
なにこれちょっと欲しい
写真もそこそこに宿を出る。
この日のルートは以下の通り。
金沢から南砺に抜ける。
ツーリングとしては最終日。
それでは、いざ。
メインルートとしては国道304号線か県道27号線がメインルートのようだったけれど、二人で走るなら交通量が少ない方が良いということで、やや遠回りの県道10号線を選択。何度も書いているけれど、せっかく二人で走るなら、絶対に交通量が少ない方が良い。この道もなんでもない道だった。でも、そのなんでもなさがとても良かった。
サクッと富山県。
からの刀利ダム。
紅葉は、茶さじ一杯分くらいの、ほんのちょっぴりの期待をしていたけれど、驚くほどあっさり裏切られて、くすんだ色の山だった。ここの道は一番高いところで430mほど。やっぱり紅葉が綺麗になるかどうかの壁は、標高500mにあるのかね、なんて二人で話をしながら下った。
もちろん、標高500mを越えるといきなり紅葉が色鮮やかになるわけではなく、その境目はグラデーションな訳だけれど、青色と紫色と赤色は別の色であるように、その紅葉の鮮やかさも別のものがあった。
南砺まで下った後は田園を抜けながら西へ西へ。
道の駅井波に到着したタイミングでお昼ごはん。
唐揚げデカ盛りがあったので、ちょっとビビりながら注文。
”常識的な範疇”のデカ盛りで安心した。
腹ごしらえをしたらリスタート。
ここからはR157を走る。
グーグルマップなりの地図で見てもらえば分かる通り、非常にトンネルが多い。いや、そのほとんどはスノーシェッドなのだけど、これが独特の景観を作っていた。横から差し込むその光に特徴的な柔らかなコントラストがあって、その光が無機質な人工物と調和して、なかなかに面白い景観を形作っていた。
「五箇山へようこそ」の看板で分かる通り、このまままっすぐ南下していけば、合掌造りで有名な五箇山にたどり着く。と、書くと、そんな観光地に繋がる道なら交通量が多いのでは、と思われるかもしれないけれど、実際はそうでもなかった。おそらくメインのアプローチは高速道路かトンネルで山をパスするR304なのだろうと思う。
実際、抜かれた車はダム建設の大型トラックがほとんどで、自家用車はあまり見かけなかった印象。大型トラックはさすがに怖かったので路肩に止まって抜いてもらった。幸いなことに「10台連なってトラックが来て、それ以外の時は来ない」というような感じだったので、そこまでストレスフルな印象は無かった。
「道の駅 たいら 五箇山和紙の里」を通り過ぎたところで左折して大山福光林道で山越えへ。この林道は景色が大変良かった。具体的には新山の神トンネルの手前(西側)の辺り。
ただ、紅葉は正直、うん、という感じだった。
なんだろう、この彩度と明度の違いは。どこからくるのだろう。
まあ、先に温見峠なんかを見てしまってから、感動が薄れてしまったというのも大いにあるだろうけど、もし次行くなら別の季節、例えば夏なんかに訪れたいと思う。新緑は綺麗なんじゃないだろうか、と思うような山ではあった。こればっかりは来てみないと分からない。
利賀村側に降りた後はR471を北上する。
こちらもスノーシェッドが多い道だった。ただ先ほど走ったR156よりも幅員は狭く、ひっそりとした印象だった。
利賀ダム建設展望所の手前辺りで紅葉が鮮やかに見える箇所があった。この辺は標高600m近く。加えて太陽光が差してきたこともあって、綺麗な紅葉を楽しむことができた。
曇天でも燃えるような紅葉の奥只見みたいな特殊な場所は除くとして、紅葉を楽しむためには太陽のライティングというのは非常に大きな要素なのだな、と改めて思った。
利賀ダム建設展望所から山の望む。
曇ってしまえばこの通り。
この写真でどれだけ山がくすんだ感じなのかが分かってもらえると思う。なんでなんだろう、本当に。やっぱり今度は夏に来よう。眺望はかなりいい道だ、ということはよく分かったから。
木々の紅葉は、彩度と明度が低くあまり楽しめなかったけれど、”スノーシェッドの紅葉”は非常に鮮やかで楽しめた。ちょうど夕日の橙色の光が差し込んだこともあって、そのコントラストがとても鮮やかに映え、目を楽しませてくれた。雪国ならではの景色。
庄川峡に戻ってきたタイミングでR471に別れを告げて県道346号線へ。
大分日が傾いてきた。
夕日と紅葉はやっぱり好き。
この県道346号線をそのまま進むと、散居村展望広場がある。
散居村の読み方が「チルイ」村だったとしたら、当世風で今風で現代風で今様でナウい感じだななどと妄想していたら音読みで「サンキョ」村だった。残念。(何が?)
名前の由来は、広大な耕地に民家が「散らばって居る」ところからと、看板に説明があった。なるほど確かに展望広場から見渡すと、鴨川の等間隔カップルみたいにポツンポツンと家が広がっていた。
山の向こうに太陽が沈む。
あの山の向こうは金沢。
朝はあそこにいたのだな、と思うその瞬間にサイクリングの愉しさが詰まっているように思う。その「ここまで移動してきたのだぞ」という実感や、それが今この地面に立っている2本の足で動かしてきたという自覚が、サイクリング旅の醍醐味だと思う。
山の向こうに夕日が完全に沈んで、周りが暗くなるまでゆっくりしていた。
真っ暗になるころに井波にある本日の宿に到着。この日の宿は、北陸屈指の古刹瑞泉寺の前に構える東山荘。創業は、なんと元禄までさかのぼる歴史のある旅館。
「こんなに素晴らしい宿に、こんな我々なんかが泊まっていいのですか…?」と思ってしまうほど立派なお宿だった。実際はそんなにびっくりするほど値段が高いわけではなかったし、今回は全国旅行者支援があったので、かなりお安く泊まることができた(とはいえあんまりにもいい宿だったので、旅行者支援が無くてもまた泊りに行きたい)。
晩御飯も、まあ豪華。
どの料理も美味しくて、手間のかかった丁寧な味わい深さがあった。
「美味しいねえ」とゆっくり語りながら食べたくなる晩御飯だった。
晩御飯を食べた後はゆっくりと。
この日は最初に書いた通り、ツーリング最終日。明日は帰るだけ。2泊3日もしてずっと一緒にいたはずなのに、それでも話す内容が尽きないって、こうしてブログを書いている今考えると不思議なんだけど、Y²とはそういう関係なのだろうと思う。
井波は彫刻の町としても有名。
宿のすぐ前にある瑞泉寺が消失するたびに宮大工により再建されたことが大きいそう。なるほどこれが噂の、と思うほど立体的で精緻な欄間彫刻があった。それにしても立体造形ができる人って本当にすごいと思う。しかも、それがある種「平面」でもある欄間彫刻で立体感や奥行感を出すって、どうやって考えて作っているんだろう…。
普段のサイクリング旅だと、夜はさっさと寝てしまうけれど、もう明日は朝早く起きる必要が無い。つまり、心行くまで館内を徘徊することができる。自然光も好きだけれど、電球に照らされたものも、それはそれで好き。そんな光を探してパシャパシャと。
満足度たっぷりで布団に入ったら、すぐに夢の中へ。
明日は帰るだけ、のつもりだったけれど、井波の町や瑞泉寺なんかを観光したので、そのことは次の記事で。
つづく。
実際走ったルート。
走行距離:110㎞ 獲得標高1844m |
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