小豆島は、ツーリングにもってこいの島だ。
今回改めてそう思った。
関西からのアクセスのしやすさ。
瀬戸内海とダイナミックなその地形。
そうめんや醤油・オリーブなどの名産品。
どれをとっても素晴らしい。
いろんなところでそう書いてある。
が、こうして文字にしたらなんだろう、陳腐な感じになる。
少し考えて思った。
そう言うの抜きにして小豆島のツーリングが好きなのだと思う。そう言うのとは、と聞かれると弱ってしまうのだけど、ひとまず、小豆島に行く。そして走る。それだけで十分楽しいのだと思う。
そんな『春の讃岐うどん&小豆島ライド』の2日目、小豆島の様子。
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太陽はまだ昇っていない。
紺色の世界だった。
フェリーの中で朝食をとる。
メニューは当然のようにうどんばかりで、当然のように自分もうどんを食べた。
島うどん、というメニュー名だったと思う。うどんに乗っているのは小豆島の「しょうゆせんべい」だそうだ。カリっと食べても、浸してしなっとさせても旨かった。うどんは…もう言わなくてもいいだろう。
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フェリーは、坂手という町についた。
坂手は小豆島の南東に突き出した半島にある港町だ。
下船すると、柔らかな霞を携えた春の日の青空が広がっていた。
ひとまず海沿いに走り出した。
島は走りだせば何とかなる。何とでもなる。だから好きだ。
走り出してほんのちょっと。
ふわりと醤油の香りが流れた。
小豆島は、醤油で有名な場所でもある。
そのなかでも、坂手は醤油蔵が並び立つ場所だ。
「これが小豆島だなあ」とライドの最初に感じられたのは、純粋に良い体験だと思った。
ふと、和歌山県のみなべ町を旅した時のことを思い出した。町に入った途端「うわあああ梅干しだああああ」と思うほどの梅干しの香りを浴びた。強烈な記憶で、よく覚えている。案外記憶に残るのは、視覚でも聴覚でもなく嗅覚なのかもしれない。
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しばらく海沿いの国道436号線を走った。
長閑な瀬戸内海が左手に見えた。
池田のあたりで国道に別れを告げて、県道252号線へ入ろう…としたら、よく分からない農道に迷い込んでしまった。あたりにはみかん畑が広がる。経験上、みかん畑の農道は大抵の場合でえげつない斜度である。ここも例に漏れることはなかった。えっちらおっちら立ち漕ぎ。
登り切って振り返れば海が見えた。
それは綺麗に見えた。
無駄登り、ともいえるけれど、こういうのは悪くない。
登り切ったところには、一本の桜が咲いていた。
「頌徳の櫻」という看板があった。辺り一帯の農園で大事にされているのだろう。見頃を少し過ぎて緑の若葉が生えてきていたが、それでも十分に立派だった。「今年は桜ライドできてないんですよ」というすーさんは、ずっと写真を撮っていた。
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名残惜しそうにしながら、すーさんが「先に行きましょうか」といったので、先に進んだ。
県道252号線で、丘とも山ともいえる登りを越えると、中山千枚田がある。まだ田植えの時期ではない。まだ少し寂しい景観だった。
県道252号線から県道25号線に移り、島の北側を目指す。
どこもかしこも春だ。
春はいい。夏もいいし秋もいいし冬もいいが、しかし春はいい。
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島の北側に来た。
相変わらず穏やかな瀬戸内海だ。
道の駅大阪城残石記念公園で休憩をとる。
ここで昼食には少し早いが、そうめんを食べた。
そうめんもまた、小豆島の特産の一つだ。
まだ長袖でいい季節だけど、それでもそうめんは旨い。夏の暑い日の食べ物の代名詞のようになっているけど、そんなことない。
そして塩おむすび。
旨いんだよ、これが。
一周回って分かる塩おむすびの旨さがある。
腹ごしらえがすんでから、山へ。
島旅というと、海沿いをのんびりと走るイメージをしがちだ。
しかし、小豆島は違う。
訪れたことがある人ならわかると思うけれど、小豆島にはフェリーを降りた瞬間、いや、フェリーで島に近づく時点で感じる「山」の圧がある。小豆島の最高峰は817mの星ヶ城山だが、それ以上に「山」という印象を受ける島なのだ。
海抜ほぼ0mから山へ。
9kmかけて600m登る県道31号線を走った。
「登りの時に、話をしていると楽」というのは、自転車の一つの真理だと思う。
今回も登りの時に話をしていた。
お題はずばり「ドリームバイク」。
あなたは、金が無限にあったらどんなバイク組みますか。
お金があるからと言って、ただただ高級レーシングパーツを奢っても、ツーリングではかえって使いづらい。じゃあどのパーツがいいか、みたいな。「そもそも規格は?」とか。この手の話は、その人の「嗜好」と「思考」が見えるので、自分は好き。
そんな話に夢中になっていたら、いつの間に寒霞渓だった。
日本三大渓谷美とされる小豆島の寒霞渓。
展望台からは、島とは思えないほどスケールの大きい景色が広がる。
こういう圧倒的な眺望を前にすると叫びたくなる癖があるのだけど、観光客がそれなりにいたので自重して心の中で叫んだ。
小豆島町方面を望む |
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寒霞渓を後にして島の東、福田に下った。
途中展望台があるこの県道246号線。
福田港にちょうどフェリーが来ているところだった。
福田港は姫路と繋がっている。
この展望台からは福田港方面の展望だけではない。
今から下る道のカーブが良い感じに見える。
ので、写真を撮る。
写真中央、ゴマ粒のように映っているのがすーさん。
自転車は小さいけど、それで良い。それが良い。
撮りたいのはツーリング写真であって、自転車の写真が撮りたいんじゃない。
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福田に下ってからは再び海沿いの道を走った。
フェリーに乗るため、坂手を目指す。
この国道436号線の東側の区間は、海が見えなかったり見えなかったり見えたり見えなかったりする区間だ。要は見える区間は少ない。林の区間が多い。
だからこそ、見えた時は嬉しい。
そして海は本当に綺麗だった。
海をのぞき込めば、高い透明度の向こう側に魚影が見える。よくよく見ていると、そこそこのサイズの魚もいるくらいだ。
少しお腹が減るころ、食事処うめもとに立ち寄った。
お腹が減っていたというのもあるけれど、何よりすーさんの「ちょっと行ってみたい食堂があるんです、行ってみたかったんですけど、いつも時間が合わなくて。アナゴが美味しいらしいんです。」という言葉に惹かれたというのが一番大きかった。そう言われて、行かないという選択肢は自分にはなかった。
「食事処うめもと」は橘という穏やかな港町にあった。
時刻は既に14:00を回っていたと思う。
既に昼の営業時間は終わっていた。
あるのはお弁当1つだけだった。
「二人で分けるのでいいので食べましょう。」
「食事処うめもと」のすぐ隣にお寺があったので、青々とした若葉が生えた桜の木の下のベンチで並んで食べた。
「ああ旨~~~~!」
時間・場所・天候も完璧だった。
少し高台にあるお寺のベンチ。
目の前には、集落と港と瀬戸内海。
天候は晴れ。気温は25度。無風。
「こんなピクニック日和、年に5日くらいじゃないですか」みたいな話をした記憶がある。天気が良くても風が強かったり、暑かったり寒かったり。あの瞬間は、本当に完璧だったと今でも思う。結晶化して綺麗にパッケージして残しておきたいくらい、いい時間だった。
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再び坂手に戻ってきた。
日曜の15時過ぎ。
「満足」と「いやもうちょっと」が入り混じりながら島を後にした。
「いやもうちょっと」という一抹の寂しさがある時は、大抵いい時間が過ごせた時だ。海の上を滑らかに進む新造船「あおい」に乗りながらそんなことを思った。
すーさん、二日間ありがとうございました。
またどこかに行きましょう。
グッバイ小豆島 |
フェリーでアイス うまい |
おしまい。
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