『紀伊半島横断ライド』2日目 上北山村~行者還トンネル~十津川村

朝起きる。
朝風呂は入らなかった。
どちらかというと、温泉よりも布団の方が好きな質だったりする。
いや、どちらも好きなのだけど。

Photo by イナさん

朝ごはんを済ませ、チェックアウト。
自転車は中に入れさせてもらえるタイプのお宿だった。

朝の日差しは柔らかい

Photo by かさん


Forest Kamikitaさん、お世話になりました!

この宿の近くには、道の駅がありコンビニとガソリンスタンドがあった。このホテルが日帰り入浴もできる施設と考えると、なんというか一か所に様々な施設が集中していて、地方の何かを見たような気もした。

さて、この日のルートは以下の通り。





昨日、真っ暗で何も見えなかった国道169号線を北上し、国道303号線を目指す。晩秋という言葉はとうに山の向こうに過ぎさっており、きりりとした気温が冬を肌に伝えるような、晴れの朝だった。



良い道とは、なんだろう。
よく、考える。

まず、交通量が少ないこと。
次に、景色がいいこと。
色んな要素があるだろうけど、この二つは外せない。国道303号線は、その二つを高い次元で満たした、「良い道」を体現したような道だった。







カーブを曲がる度に見える景色に思わず「ほおお」と、思わず声が漏れる。
落葉した季節の特権かもしれないけれど、この季節はいつもより空が広い。

真ん中やや上に道が見える。
今からあそこへ、行く。


ばらけながら各々写真を撮りながら進む。

大学サイクリング部のライドが自分のベースになっている自分としては、こうも個々がばらけて走る経験は初めて。最初はどんなペースで走ればよいか若干戸惑ったけれど、途中から気にせず一人で走るときのペースで写真を撮りながら進んだ。これは同行者の経験値や体力的に心配をする必要が無い、という状況だからできること。

なるほど、こういうライドもあるのか、とひとつまた走り方を知った。



山の向こうに大台ケ原方面の山々が良く見える。
ここも走りたいところ。



ルートのプロファイル的な話をすると、R169との分岐地点から登り切りである行者還トンネルまで、距離は10㎞ほどで標高差は約600m。つまり平均斜度は6%。斜度詐欺的な個所もなく、ほぼ一定の斜度で総じてかなり上りやすいルートだった。






国道303号線の上北山村から天川村の区間は「ナメゴ谷」というのが有名らしいというのは、関西に来てから知ったことだった。尾根筋だけに広葉樹が生え、秋にはその尾根だけが赤く染まり、まるで龍が昇っていく景色なのだという。


我々が訪れたの12月。
紅龍は登るどころかすっかり落ちきってしまっており、寂しい色の抜けた尾根筋が見えるばかりだった。とはいえ、これが色付く頃には撮影スポットは大変な混雑になるらしく、むしろ龍が冬眠しているこのタイミングこそ、良い道だったと思う。どれだけ絶景であろうと、混雑した道を走る趣味は持ち合わせていない。

もう少し突っ込んだ話をするなら、誰かの写真を真似した絶景に何の価値があるのだろう、とさえ思ってしまう。混雑する中でカメラを持ち出し、たとえそれがどれほど絶景だったとしても、誰かが撮った写真と同じような構図で同じような写真を撮って何が楽しいのか、と。それは、シャッターを切るときにワクワクできるだろうか、と。

折角自分で撮るのだから、自分しか撮れない写真を撮りたい、と思う。「下手くそが生意気を」と自分でも思うけれど、でも、目標はいつもそこ。結果として誰かの撮った写真と似てしまうことは構わないけれど、最初からそれを狙うことは楽しくないし、絶対にしない。スマホで綺麗な写真が簡単に撮れるこの時代に、わざわざカメラを持っていくのだから楽しく写真が撮りたい。


少し話が逸れたけれど、そう言う意味でもこのタイミングで来れたのが良かったと思う。僕は、紅葉の季節にここを訪れることは、たぶんこの先もない。もっと良い紅葉をひっそり見られる場所は、日本には、残りの人生全部使っても全て回り切れないくらいにはたくさんある。




中盤・終盤とずっと景色の良い道が続く。
2022年でもトップクラス、いや今まで走った中でもトップクラスに入ってくるほど”良い道”だった。「これは、S級の道ですね!」なんて話しながら進んだ。


標高が1000mを超え少し進むと、登り切りにたどり着く。


行者還トンネル。

大峰山脈を貫くこの特徴的な名前をしたトンネルはとにかくまっすぐで細くて、暗い。外から写真を撮っている分にはまだいいけれど、その入り口に立つと、すっぽりとそのまま光と共に暗闇に吸い込まれてどこかにワープしてしまうんじゃないか、なんて小学生のような空想をしてしまうほど、真っ直ぐで暗い。




トンネルを抜けて天川方面への下りも景色は抜群だった。





途中からは沢沿いを走る。沢の独特の青さが何とも冬の冷たい景色とマッチしてよい感じ(夏なら夏で、この涼しげな川が目を楽しませてくれる、とか思ってそうだけど)。




魚影がくっきり。
実際、とても寒いにもかかわらず、釣り人は何人もいた。


天川村に下ったタイミングでお昼ごはん。
喫茶みつばさんというところでとった。


ジビエ丼。
鹿肉そぼろは、香辛料が効いていて、あとピクルスもいい仕事をしていてとてもおいしかった。天川に寄るときは、また来たいところ。


丼だけだと量が少なかったので、アユ味噌のおにぎり。
こちらも美味。


最後はコーヒーと栗のパイ。
豪遊しているように見えるかもしれないけれど、これは地域クーポンのおかげ。自分のお財布からお金は出ていない。使うところも無いので、昨日貰ったクーポンはここで使い切ってしまおうと、色々と注文したけれど、どれもこれも美味しくてよかった。


リスタートしてからはR303から分かれて、県道53号線を走る。




二車線区間と一車線乗せ合区間が交互に現れる。
交通量は少ない、良い道。


リフレクション


ずっと川沿いを走る。








県道53号線から国道168号線に乗り換え、さらに南に進む。


と、いいつつ、川向うの旧道を走ったりする。
この辺はさすがイナさんルートプランニング。




山の間の川沿い、広めの谷を走る。
国道168号線も、昨日走った国道169号線同様で紀伊半島を南北に走る道路。五條市からスタートしており、このまままっすぐ進むと熊野本宮を横切り、新宮市まで行くことができる。




だいぶ日が傾いてきたタイミングで県道733号線へ。
時間があれば林道も、と思っていたけれど、どこにもそんな時間はなかったのでそのままお宿へ向かった。

イナさん曰く、宿の方から「国道から逸れてだいぶ山道を進むと着きます」と言われていたとのことで、確かにだいぶ進んで進んで心細くなるぐらい進むと、お宿と手を振っている人影が見えてきた。いつ来るか心配になって外に出ていたら、自転車のライトが見えたから手を振ったの、とは宿女将の談。空には月が良く見えるぐらいの時間になっていた。




晩御飯は、もう写真の通り。
どれもこれも美味しかったのだけど、一番驚いたのが柿の天ぷら。牡蠣の天ぷらは食べたことがあったけれど、柿の天ぷらは初めて。シャリっとした気持ちの良い歯ざわりと柿のしっかりした甘さが、てんぷらの衣とよく合う。とても美味しい。本当に美味しい。


それから、この季節にあって嬉しいおでん。とろとろの牛スジはもちろん、一番おいしかったのは自家製こんにゃく。市販のこんにゃくとは違くて、少し柔かめの優しい食感。今思い出しても、また食べたくなる。


この日はこのままおやすみ、じゃなくて、実はこの日撮った写真の鑑賞会をした。これは僕が「そういうのやりたいです」と言って二人に付き合ってもらった。「これ、こういうタイミングで、こういう感じで撮ったんですよ」的な話や、機材の話、かさんのGoPro動画の鑑賞なんかも。

実際、目の前の人が自分の写真にリアクションしてもらえるというのは、絶対にSNSでは満たせない何かを満たすことができる。どういう意図で撮っているのか聞けるというのは、SNSでその人の写真を見るだけでは得られない、何かを得ることができる。これは絶対に間違いない。そして、それは何よりも楽しい。本当に本当に楽しいのである。だって、それは同じ道を「疲れたー」なんて言いながら走ってきたのだから。

いつの間に夜は更けていた。

つづく。

走行距離:80㎞ 獲得標高:1240m



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