南風感じる4月第一週目。
まだ暗い中、駅へ向かった。
朝日に照らされた駅前の桜は桜色だった。
やうやう明るくなりゆく車窓を眺めながら向かったのは福知山駅。
京都駅から北西に延びる山陰本線に揺られることおよそ2時間。
今日のルートはここからさらに西へ。
国道429号線の残していた部分を走るため。
前回の訪問時はこちら。
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「おー咲いてる咲いてる!」
と思わず独り言を言ってしまうくらいに満開な桜が、走り始めてすぐにそこかしこ。3月の気温がやや低かった2024年。桜の満開は、例年よりやや遅い4/7だったと思う。こういうことをブログに残しておくと、数年後の自分がちょっと嬉しい。
前回の記事にも書いたけれど、狭路と快走路が併存する国道429号線。
榎峠付近までは、長閑な2車線をご機嫌に流した。
「談」というあまり見ない地名の集落の最も山側。2車線から狭路に変わる直前にある「大型車両通行不能」の大きな看板を彩るように、一本の桜が咲いていた。さほど古い桜にも見えないので、集落の誰かが植えたのかもしれない。「これ以上ない峠の入り口じゃあないか」と口も綻ぶ。
榎峠は、大した峠ではない。
緩めの斜度をゆるゆるとペダルを回せば、あっという間にたどり着く、たった標高270mの峠だ。
ウォーミングアップにはちょうど良い。
サクッと頂上。
大した峠ではない、とは言った。
けれど、別にそれは標高の話であって、雰囲気の話ではない。
「雰囲気は?」と聞かれれば、「そりゃもちろん大したもんだ」と胸を張って答える。
そういう峠。好き。
榎峠を越えると青垣町。
国道429号線をそのままま加古川沿いに西に進むと青垣峠。
ただ、今回はこの区間の429号線はトレースせずに国道427号線を進んだ。
決して青垣峠が嫌いというわけではない。
前回走っているというのと、国道427号線の遠阪峠を越えて見たかったから。
そして427号線沿いに桜がきれいに咲いていたから。
縛りはあくまで楽しむもの。
走ってみたい道を走った方がいい、というのが持論。
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国道427号線の遠阪峠へは、遠阪川沿いを北西方面に向かう。
国道427号線の川を挟んで反対側の白道を走った。
何度かブログに書いているけれど、川を挟んで国道の反対側にある白道/県道、いい道の確率高め。この道も例に漏れずだった。
特にこの季節、遠阪川沿いの桜、とてもとてもよかった。
特筆するような、例えば「一本桜」のようなめちゃくちゃに分かりやすい何かがあるわけではない。
ただ、ただただ桜が並んでいるだけ、といえばそれだけ。
でも、この季節の薄ピンクのカーテンのように並ぶ桜並木は、心の底から美しいと思った。
東は兵庫県丹波市青垣町、西は朝来市山東町。
すぐ下には北近畿豊岡自動車道のトンネルが走る。
三桁国道の峠道らしく曲がりくねった線形だけど、優しい(?)三桁国道なので概ね2車線で斜度も緩やか。山東町へ下る途中、180度にぐるりと回るヘアピンカーブの頂点からは眺望が峠道の色どりを添えている。
遠くに薄ピンクの列、その先に春霞。
どうしようもなく春だ。
山東町に下ってからは、遠阪峠からも見えていた桜並木へ。
柴川という小川にそってずららららら、と桜が並ぶ。
この先、まだ90kmくらいある…のだけど、まあ…写真撮るよね。
なんならゆっくり時間をかけて、丁寧にいっぱい撮っちゃうよね、という景色だった。
鯉幟も気持ちよさそうに泳ぐ気温20度。
このぐらいの気温の日が、もう少しあっていい。欲を言えば、毎日続いて欲しい。
「気持ちいいね」を具現化したような一日だった。
雲海に浮かぶことで有名な竹田城のある竹田を通り、円山川沿いを南へ南へ。
南風が向かい風に変わる。
新井という地名が「あらい」ではなく「にい」であることにびっくりしながら進むと再び国道429号線に合流。再び西へ進んだ。
神子畑川沿いに進むと、神子畑選鉱場跡。
明延鉱山の選鉱施設として建設され、その規模・産出量ともに東洋一と呼ばれた時代もあったのだとか。
役目を終えた山中の巨大人工物にも春。
上手く言えないけど、グッとくる。
神子畑選鉱場跡の前の通りにも春。
あたりから少しもわっとした甘い香りが流れた。
なんだろう、嗅いだことがないような。
辺りを見回すと山の斜面を埋め尽くすように白い球形の花が咲いていた。
調べるとミツマタ、というらしい。
なかなか写真では伝わりにくいかもしれないけれど、胸から人の身長くらいの高さはあるかという位置に白い花がポツポツと咲いている。日陰ということも相まって、花が宙に浮いているようにも見えて、幻想的だった。
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笠杉トンネルで峠を越えて一宮町。
さらに西へ進んで高野峠へ。
「冬季通行止」
一瞬「え?」って焦るやつ。
調べてみたらちゃんと解除されてて一安心。
ここら辺も冬は雪が降ったりするんだろうな、などと思うなど。
高野峠は宍粟市一宮町と波賀町をつなぐ、標高760mの峠。
一宮町が標高300m弱なので標高差は約470m。
この標高差を6.2㎞で駆け上げる。
平均勾配は9.2%。なかなかになかなか。
休憩は多めにしようと心に決めて登り始めた。
休憩を適宜挟みながら進むこと数十分。
大きく山をまく標高630m地点、東側が開けた。
眺望があったのはここだけだったけれど、それでもあるのとないとでは大違い。
今までの疲れを吐き出すように「ほおぉ」と大きく息を吐いて、峠の空気を胸に吸い込む。
くしゃみがでた。
忘れてた。
春だった。
眺望ポイントから高野峠まではすぐ。
「この付近は高野峠です」という、”峠”という一点のみを表わしそうな名詞に、謎の含みを持たせる看板が味わい深い。
旧道とかがあるから、こんな書き方をしているのだろうか。
峠には地蔵尊。
一礼してから峠を下った。
なお、下りも6㎞強で470m下るので、どのみち斜度はきつい。
波賀町の中心部に下り、再び登り。
進む方角はまだ西。
鳥ヶ乢(とりがたわ)へ向かう。
中国地方では峠の事を「乢」という字で表すことがある。
安ケ乢、声ケ乢、休乢などなど。
いわゆる方言漢字などと呼ばれる類で、他に「垰」も中国地方に残る方言漢字。
好きな人は笹原宏之氏の本とか読んだら面白いと思う。
鳥ケ乢には旧道があるけれど、そこまで行く元気と時間はなかった。
ここは宿題。また今度。
標高530mまで登って、トンネルで峠を越えた。
千種町に下って、また再び登り。
「こいつ何遍上り下りを繰り返しているんだ」とそろそろ思われてそうだけど、およそ50㎞地点から↗400m↘260m↗470m↘470m↗230m↘200m↗350m↘430mという登って下って登って下ってをひたすら繰り返すこのルート。
今回の裏テーマとして、新車でこういうアップダウンの多いルートを走った時に、どれだけ応えてくれるだろうか、というのを知りたいというのがあったり。
まだこうした峠を繰り返す山岳ルートは走っていなかった新車。
疲れ切った時に自転車がどれだけ助けてくれるか、というのはツーリングバイクとして結構重要な要素だと思っていて、「新顔の君、どれだけやれるの?」という、期待の新入社員を見るような気持ちだった。
で、結論はというと、めちゃくちゃ仕事できる奴だった。
いくら自転車が助けてくれているとはいえ、自分でも走りながらさすがに思う。
さて、これが最後の登り。
気を取り直して、志引峠だ。
遂に岡山県に突入する。
千種町の中心部との標高差はおよそ350mで、それを5㎞で駆けあがる。平均斜度は8%程度だけど、峠後半になると斜度が上がるなかなかになかなかのやつ。100㎞超えてから登り始めなので、ダメージ的にはそれなりにそれなり。
このへんから斜度がきつかった記憶。 |
標高600mを越えたあたりから、急に開けた。
オレンジ色が遠景を染めていき、これから越えるべき西側の山に遮られた影が伸びてゆく。
久々に「いい峠に来られたな」と思った。
山が多い日本、とは言われるけれど、いい峠は決してたくさんあるわけじゃない。
だからこそ、そこに行きつけたときは本当に嬉しい。
多分ここはまた来るだろう。
そう思わせる素晴らしい峠だった。
ここまでこればあと少し。
写真を撮っていたらなぜか元気が出てくるという写真好きあるあるで、最後まで登り切って峠に到着。
暖かいとはいえ、まだ4月。
汗ばんだ体にするりと入り込む、冷たい峠の春の風を感じたので、ジャケットを着て下った。
何でもない、どこにでもありそうな景色、と言われるかもしれないけれど、こんな素晴らしい里山は案外ない。僕はとても好きです。
川沿いにゆるく棚田になっているこの地形、見てピンとくるものがあった。
鉄穴流しではなかろうか、と。
鉄穴流しとは中国山陰地方で大規模に行われた砂鉄の採集方法で、砂鉄を多く含む山を崩して土砂を水路に落とし、それを流下させることで比重の軽い土砂と重い砂鉄を分離する方法のこと。
山地斜面が大がかりに掘り崩されるという特徴がある、なんてことを耳にしたことがあったので調べてみたら当たりだった。昨年の6月、近くのちくさ高原を訪れた際に、たたら場跡があったこともヒントだった。
だからなんだという話ではあるけれど、こういうことを知っていると、旅がちょっぴり幸せになると思う。
さて、その後は大原というところまでかっ飛ばして終わり。
まだ明るいうちに着けたので良かった。
というか、日が長くなったなあと感じる。
「流れる季節の真ん中で、ふと日の長さを感じます」というのは、自分も高校の卒業式に歌った記憶があるけれど、最近になって本当にその意味が分かるようになった気がする。社会人、特にデスクワークは流れる季節に疎すぎるのだ。
高校生・大学生では、「ふと日の長さを感じる」なんてことはあんまりなかったと思う。学生時代は、余白の時間が多かったからだろうか。
けれど、社会人になってオフィスに缶詰め&PCとにらめっこ、なんて日々を過ごしていると「ふと日の長さを感じる」なあ、なんて思う。
やっぱり季節感を忘れた生活は、なんか寂しいと思うので、こうして外に出て「ふと」でも構わないから「日の長さ」を感じられるようにしていたい、と思う今日この頃。
閑話休題。
鳥取と姫路を結ぶ因幡街道の宿場町として栄えたという大原。
旧街道の残り香を強く残した、風情のある街並みが続く。
惜しむらくは、着いた時間が6時過ぎで店は軒並み閉まっていたことと、次の電車まで15分しかなかったこと。
つぎはゆっくり訪れたい。
というか、因幡街道サイクリング、なんてのもいいかもしれない。
というわけで大原駅にておしまい。
ちなみに、この手前の立派な駅舎、窓口営業時間が過ぎると鍵が締まるタイプのやつで、駅のホームへは右側を回って入るというパターンのやつだった。
最初、この駅舎の中を通らないとホームに入れないと思い込んでて、発車までの時間がなく焦っていたのもあり、鍵のかかったドアを何回もガチャガチャ開けようとする不審者になってしまった。
初めての人はお気をつけて。
ホームまで来られて一安心。
疲れた体をシートに預けて、帰路に就いた。
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走って楽しい道とは何だろう、と考えることがある。
交通量の少なさ、景色の良さ、峠道の味わい、沿道の人里の美しさ。
それら全てが、このエリア、特に国道429号線には詰まっている。
そう言い切ってしまうほど、好きだ。
必ずまた来よう。
おしまい!
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